この記事でわかること
- 背中の痛みが起こる原因とメカニズム
- 背中の痛みの主な原因(筋肉・神経・内臓など)
- 背中の痛みを「部位別」に見たときの特徴
- 背中の痛みに隠れている可能性のある病気(内臓疾患・椎間板ヘルニアなど)
- 背中の痛みを和らげる治しかた・セルフケア方法
- 病院(整形外科・内科)を受診すべきタイミングの目安
背中が痛いのはなぜ?原因とメカニズム
「背中の右側がズキズキする」「真ん中が重だるい」「息を吸うと背中が痛い」──
そんな背中の痛み感じていませんか?
背中の痛み(背部痛)は、筋肉や骨・関節の不調によるものと、内臓や神経からの“関連痛”として現れるものの大きく2つに分けられます。一見すると「肩こりの延長」や「姿勢のせい」と思いがちですが、背中は多くの臓器と神経が関わる部位のため、思わぬ病気のサインであることも少なくありません。
背中の痛みの主な原因
背中の痛みは、単なる「こり」から「内臓疾患」まで、原因の幅が非常に広い症状です。
特に近年は、スマートフォン・デスクワーク・運動不足などで筋肉が固まり、慢性的な背中の張りや違和感を訴える人が増えています。ここでは、臨床的にも多く見られる5つの主要な原因を整理して解説します。
筋肉の緊張・姿勢の乱れ(もっとも多いタイプ)
背中の痛みで最も多いのが、筋肉のこわばりや血流の滞りによる筋筋膜性背部痛です。
デスクワークやスマホ操作などで、前かがみ姿勢を続けると
首から背中にかけての筋肉(僧帽筋・広背筋・脊柱起立筋など)が緊張し、
血流が悪化して老廃物がたまり、痛みや張りが生じます。
特に「猫背」「巻き肩」「同じ姿勢を長時間取る」人は要注意。
背中が丸くなることで呼吸も浅くなり、疲労が抜けにくくなります。
特徴
- 動かすと痛い/押すとズーンと響く
- 温めるとラクになる
- 朝より夕方に重だるい
肋間神経痛(びりっと電気が走るタイプ)
「息を吸うと背中がズキッ」「くしゃみでビリッと痛む」──そんなときは、肋間神経痛の可能性があります。肋骨と肋骨の間を通る神経が、炎症や圧迫で刺激されることで発生します。
ストレスや寒冷、帯状疱疹の初期症状としても現れることがあります。
特徴
- 体をひねる・深呼吸で痛みが出る
- 痛みが線状に走る(片側だけ)
- 夜間や安静時にも痛むことがある
椎間関節障害・脊柱の変形
背骨(脊柱)には小さな関節が連なっており、姿勢や加齢の影響でズレや変形を起こすことがあります。特に胸椎椎間関節症や胸椎圧迫骨折では、背中の中心や片側に痛みを感じることがあります。
また、猫背や側弯症(背骨の左右の曲がり)によって筋肉のバランスが崩れると、特定部位に負担が集中し慢性痛に。
特徴
- 特定の動き(後ろに反るなど)で痛い
- 背中の一部に常に張り感がある
- 高齢者では転倒後に圧迫骨折のことも
内臓疾患による関連痛
背中の痛みの中には、内臓の異常を知らせるサインもあります。
臓器の痛みは、神経を介して背中へ“放散”することがあるためです。
| 背中の部位 | 疑われる主な臓器・疾患 |
|---|---|
| 左側 | 心臓(狭心症・心筋梗塞)、胃(胃潰瘍) |
| 右側 | 肝臓・胆のう(胆石症・胆嚢炎) |
| 真ん中 | 膵臓(膵炎・膵がん)、大動脈瘤 |
| 腰に近い背中 | 腎臓(腎結石・腎盂腎炎) |
特徴
- 安静時も痛い
- 体勢を変えても痛みが軽くならない
- 発熱・吐き気・冷や汗・息苦しさを伴う
ストレス・自律神経の乱れ
ストレスや睡眠不足も、背中の痛みを引き起こします。
緊張や不安が続くと、交感神経が優位になり、筋肉が常にこわばった状態になります。
これにより、血流が滞って“張り”や“痛み”が出るのです。
特徴
- 痛みが日によって違う
- 仕事・人間関係のストレスで悪化する
- 休養を取ると軽くなる
背中の痛み「部位別の特徴」
背中の痛みは、痛む位置によって原因となる臓器や組織が異なります。
ここでは、痛む場所別に考えられる疾患や背景をまとめます。痛み方(ズキズキ・締めつけ・刺すような痛みなど)や随伴症状(発熱・息苦しさ・吐き気など)も、原因を見極める手がかりになります。
背中の左側が痛いとき
背中の左側の痛みは、心臓・胃・膵臓などの臓器からの関連痛で起こることがあります。
左肩や肩甲骨の下に放散するような痛みがある場合は、循環器・消化器疾患を疑う必要があります。
- 心臓由来:狭心症・心筋梗塞などでは、胸の圧迫感とともに左肩・左背部に鈍い痛みが放散します。動作やストレスとは関係なく痛む場合、緊急性が高いケースも。
- 胃・十二指腸由来:胃潰瘍や逆流性食道炎では、みぞおちの痛みが背中の左側に放散することがあります。食後や空腹時に痛みが出るのが特徴です。
- 膵臓由来:膵炎や膵がんなどでは、みぞおち〜左背部への持続的な痛みを伴い、体を前に倒すと少し和らぐ傾向があります。
- 筋肉・骨格由来:左側の肩甲骨周囲の筋緊張や姿勢不良による筋筋膜性疼痛も多くみられます。
左側の痛みは「軽い筋肉痛」から「命に関わる疾患」まで幅が広いため、
特に胸の圧迫感・息苦しさ・冷や汗・吐き気を伴うときは、すぐに循環器内科を受診してください。
背中の右側が痛いとき
背中の右側の痛みは、肝臓・胆のう・腎臓など、腹部右側の臓器に関係している場合があります。
- 肝臓・胆のう由来:胆石症や胆嚢炎では、右の背中や肩甲骨の下に痛みが放散します。食後(特に脂っこい食事の後)に悪化するのが典型的です。
- 腎臓由来:腎盂腎炎や腎結石は、背中の下の方〜脇腹あたりの鈍痛や刺すような痛みを生じます。発熱や尿の濁り・血尿を伴うこともあります。
- 筋肉性:利き手側の筋疲労やデスクワーク姿勢での右肩甲骨下の張りが、慢性的な右背部痛の原因になることもあります。
右背部の痛みが「呼吸や体勢と関係なく続く」「発熱・食欲不振を伴う」ときは、内臓性の可能性が高く、内科での検査が必要です。
背中の真ん中が痛いとき
背中の真ん中(脊柱のライン上)の痛みは、骨・関節・消化器・大血管など、構造的・内臓的のどちらの要因も考えられます。
- 胸椎椎間関節障害・椎間板ヘルニア:体を反らしたりひねったりしたときに強く痛み、長時間同じ姿勢で悪化します。
- 胃・十二指腸・膵臓由来:みぞおちの奥から背中の中央へ放散する痛みは、消化器疾患による可能性があります。
- 大動脈瘤・大動脈解離:突然の激しい中央部の痛みは要注意。胸部や腹部の大血管トラブルによる痛みで、緊急対応が必要です。
慢性の姿勢性痛か、急性の内科疾患かを見極めることがポイントです。
背中の痛みと息苦しさがあるとき
「背中が痛くて呼吸が浅い」「息を吸うと痛む」場合は、胸郭や心肺の異常が疑われます。
- 心臓由来:狭心症・心筋梗塞では、胸の圧迫感とともに背中の痛み、息苦しさ、冷や汗を伴うことがあります。
- 肺由来:肺炎や気胸では、呼吸のたびに背中の痛みが強まります。発熱や咳、息切れがある場合は呼吸器内科へ。
- 自律神経失調症・過換気症候群:強いストレスや緊張で、呼吸が浅くなり背中のこりや圧迫感を感じるケースもあります。
呼吸と痛みがリンクする場合は、整形外科的よりも内科的原因の精査が優先です。
肩甲骨の下が痛いとき(右/左別)
背中の上部〜肩甲骨の下の痛みは、内臓疾患と筋緊張の両方で起こります。
- 右肩甲骨下:胆石・胆嚢炎・肝炎などの関連痛として出現することがあります。右腕の動作で変わらない場合は臓器性の疑い。
- 左肩甲骨下:心臓や胃・膵臓などの疾患で生じる放散痛のほか、ストレスによる筋緊張でも発生します。
- 筋肉性:デスクワークやスマホ姿勢での僧帽筋・肩甲挙筋のこりが原因のことも多く、左右差のある痛みとして感じられます。
左右どちらの肩甲骨下でも、内臓疾患による痛みは「体を動かしても変わらない」ことが特徴です。
背中の筋肉が痛いとき
動作や姿勢に伴って痛む場合、多くは筋筋膜性疼痛症候群(MPS)などの筋肉由来です。
- 運動不足や猫背などで筋肉に過負荷がかかる
- 寝具が合わず、睡眠中に背中が緊張する
- 同じ姿勢を長時間続けている(デスクワーク・スマホ操作)
筋肉性の痛みは押すと痛みが再現し、温めると軽くなるのが特徴です。
一方、痛みが安静時にも続く場合は、筋肉ではなく神経・内臓・骨の関与を考えましょう。
背中の痛みに隠れている病気
背中の痛みには、単なる筋肉疲労だけでなく、骨や関節、神経の異常が背景にあることもあります。
ここでは、整形外科で実際に多くみられる背部痛の原因疾患を紹介します。
(※ここでは一般的な医学情報をもとに説明しています。実際の診断は医師による判断が必要です。)
筋筋膜性疼痛症候群
もっとも一般的な“慢性背部痛”の原因のひとつです。
筋肉の中に「トリガーポイント」と呼ばれる硬結(コリ)ができ、そこを押すと痛みが他の部位に放散します。発症の背景には、長時間の同一姿勢・過労・冷え・ストレスなどが関係しています。
特に僧帽筋・広背筋・脊柱起立筋などの背部筋群に多く、「背中が張る」「呼吸が浅くなる」といった訴えが典型です。
胸椎椎間関節症
背骨の関節(椎間関節)が加齢や姿勢の影響で炎症を起こし、痛みを生じる疾患です。
体を反らす・ひねる動作で痛みが強くなるのが特徴で、特に胸椎レベルでは「背中の真ん中あたりの局所痛」として現れます。
長時間のデスクワークや猫背姿勢が続くと、椎間関節に負担がかかりやすく、慢性化するケースもあります。
胸椎椎間板ヘルニア
胸椎の椎間板が突出し、神経を圧迫して背中の痛みやしびれを引き起こします。
腰椎や頚椎に比べると発症頻度は低いものの、胸部〜背部の痛みの原因となることがあります。
痛みは局所的な鈍痛から、体をねじったときにビリッと走るような神経痛までさまざまです。
重症例では、下肢のしびれや感覚異常、歩行障害、排尿障害などを伴うことも。
脊柱管狭窄症
背骨の中の神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫されて痛みやしびれを起こす疾患です。
胸椎部ではまれですが、腰椎・頚椎と同様に間欠性跛行(歩くと痛くなり、休むと軽くなる*が出ることもあります。
加齢変化・骨の変形・靭帯の肥厚などが主な原因で、進行すると筋力低下や排尿障害を伴います。
圧迫骨折
骨粗鬆症や転倒などで、胸椎・腰椎が押しつぶされるように折れる骨折です。
高齢女性に多く、軽い転倒でも発症します。
骨折直後は「ズキッとした痛み」ですが、時間が経っても背中の真ん中や腰に鈍痛が続く場合があります。
肋間神経痛
背中の痛みで「ビリッと走る」「呼吸で痛い」と訴える場合に多い疾患です。
肋骨骨折(咳などの軽微な衝撃でも起こることがあります)もよく似た痛みを起こします。
神経の炎症や圧迫、帯状疱疹の初期症状などで起こります。
痛みは左右どちらかの肋骨に沿って走り、深呼吸・咳・くしゃみで増悪します。
神経そのものの刺激によるため、姿勢を変えても痛みが変化しにくいのが特徴です。
側弯症
背骨が左右に曲がることで、特定の筋肉や関節に負担がかかり、慢性的な背中の痛みを生じます。
思春期の成長期や加齢に伴う変形性変化で進行することが多いです。
筋膜炎・広背筋炎
過労や運動、冷えなどで背中の広い範囲に炎症が起こるケース。表面よりも「奥が痛い」と感じるのが特徴です。筋肉性の中でも痛みが強く、安静時でも違和感が残ります。
背中の痛みの治しかた・対処法
背中の痛みは、誰にでも起こりうる“生活習慣病”のひとつです痛みを抑え、再発を防ぐカギは「動かしながら整える」こと。医療・リハビリの現場でも推奨されるセルフケアの考え方と、日常でできる具体的な対処法を紹介します。
無理に動かさず、まず“痛みの性質”を見極める
背中の痛みには、上述のとおり、動かすと痛む「筋肉・関節性」、安静にしていても痛い「内臓・神経性」の2タイプがあります。動作で変化する痛みは、筋肉の緊張や姿勢に由来することが多く、温めたり、軽いストレッチで改善することがほとんどです。
一方、安静時にも続く痛み、息苦しさ・発熱・吐き気を伴う痛みは、整形外科以外(循環器・呼吸器・消化器)での精査が必要です。
まずは「体を動かして痛みが変化するかどうか」で方向性を見極めましょう。
温めて、血流を回復させる
背中のこりや筋膜性の痛みは、「温熱」が最も効果的な対処法のひとつです。
入浴(半身浴で構いません)、蒸しタオル、使い捨てカイロなどで温めることで、血流が改善し、筋肉の緊張が緩みます。
ただし、急性の炎症(ぎっくり背中・外傷後の腫れ)がある場合は冷却が適切です。
「じっとしていてズキズキ痛む」「熱を持っている」ときは、まず冷やして安静に。
動かすことが最大の予防と治療
痛みが落ち着いてきたら、背中を“ゆっくり動かす”ことが回復の第一歩です。
動かさないでいると筋肉が硬くなり、血流がさらに悪化します。
✅ おすすめの軽い運動
- ウォーキング:背骨の自然な動きを保つ最良の運動。姿勢改善にも効果的です。
- 肩甲骨まわし:両肩をゆっくり前後に回すだけで、僧帽筋・広背筋がほぐれます。
- 胸を開くストレッチ:両手を後ろで組み、胸を広げる。呼吸が深くなり、背中の緊張が軽減します。
どの動作も“痛みを我慢して行う”必要はありません。
「気持ちいい」と感じる範囲で、1日3分でも続けることが大切です。
痛みが長引くときの受診タイミング
次のような場合は、自己判断せず早めに医療機関を受診しましょう。
- 2週間以上痛みが続く
- 夜間や安静時にも痛む
- しびれ・息苦しさ・発熱・吐き気がある
- 転倒やケガをきっかけに痛みが出た
整形外科・リハビリ科では、理学療法士による運動指導・物理療法で改善を目指します。

