この記事でわかること
- 股関節の痛みの代表的な原因(筋肉・骨・関節など)
- 右股関節だけ/左股関節だけ痛いときに考えられること
- 「腰痛」と「股関節痛」の違い
- 股関節の痛みに隠れている可能性のある病気(変形性股関節症・滑液包炎・大腿骨頭壊死など)
- 股関節の痛みを和らげるセルフケア・ストレッチ・温め方/冷やし方
- 整形外科を受診すべき症状の目安
股関節が痛いのはなぜ?原因と背景
「歩くときに股関節がズキッと痛む」「座っていても違和感が消えない」
「最初は“ちょっと違和感があるな”と思っていたのに、いつの間にか階段を上がるのもつらい」股関節の痛みは、そんなふうに少しずつ進行していくことがあります。股関節の痛みは、年齢による変化だけでなく、筋肉・骨・軟骨・靭帯など複数の組織が影響し合って起こる複雑な症状です。
太ももの付け根やお尻の奥、鼠径部(そけいぶ)といった場所に痛みが出ることが多く、立つ・歩く・階段を上がる・椅子から立ち上がるなど、日常の何気ない動作にも支障をきたします。
多くの場合、痛みの背景には次のような要因が関わっています。
- 加齢による軟骨のすり減りや関節の変形
- 姿勢や動作のクセ(片足重心・長時間の立ち仕事など)
- スポーツや仕事の負担による関節・筋肉への繰り返しストレス
- 女性特有の要因(出産や骨盤の歪み、ホルモンバランスの変化)
- 筋力低下による関節の不安定化
こうした要因が重なり、少しずつ痛みを悪化させていくケースが多く見られます。
「そのうち治るだろう」と我慢しているうちに、関節の変形や可動域の制限が進行してしまうこともあります。
また、股関節の痛みの中には、内臓の病気(腎臓や婦人科疾患など)による関連痛が隠れている場合もあります。
そのため、単なる疲労や年齢のせいと決めつけず、早期の受診と正しい原因の見極めが大切です。
─このあと、代表的な原因や病気のタイプについて詳しく解説していきます。
股関節痛の原因と見分け方
ここでは、股関節痛を引き起こす代表的な原因を、軽いものから進行性の高いものへ順に紹介していきます。
姿勢や生活習慣による股関節痛
まず最も身近な原因が、「姿勢」や「日常のクセ」による股関節の負担です。
長時間のデスクワークやスマホ操作で座りっぱなしが続くと、股関節を支える筋肉が硬くなり、血流が悪化。結果として関節の動きが制限され、違和感や痛みを感じやすくなります。
特に猫背や脚を組むクセは、骨盤を歪ませて左右の股関節にかかる負担をアンバランスにします。これが続くと、筋肉が片側だけ張り、股関節周囲の炎症につながることもあります。
💬「特にケガもしていないのに、片方の股関節だけ痛い…」そんな場合は、姿勢や日常動作が関係していることが多いです。
筋肉・腱のこわばりや炎症による股関節痛
次に多いのが、股関節周囲の筋肉や腱のトラブルです。
股関節の安定を保つために働く筋肉がこわばったり、炎症を起こしたりすることで痛みが出ます。
主に関わる筋肉は以下の通りです。
- 腸腰筋(ちょうようきん):太ももの付け根の深い位置にあり、硬くなると鼠径部に痛みが出る
- 中臀筋(ちゅうでんきん):お尻の横の筋肉。歩く・立つ際の安定に関わる
- 大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん):太ももの外側の張りや突っ張り感の原因に
- ハムストリングス:お尻の下〜太もも裏にかけての痛みを引き起こす
長時間座りっぱなしや運動不足など、股関節を動かさない生活が続くと、これらの筋肉が硬くなりやすく、痛みが慢性化します。
スポーツや外傷による股関節痛
スポーツや転倒などによる外傷性の股関節痛も珍しくありません。股関節は体の中心に位置し、ジャンプや方向転換などの動作で大きな負担がかかります。
激しい動きや無理なフォームが続くと、筋肉・腱・靭帯に炎症や損傷が生じ、痛みが出ることがあります。代表的な症例には以下のようなものがあります。
- 肉離れ:筋肉が急激に収縮して裂ける
- 腱炎:筋肉と骨をつなぐ腱の炎症
- 靭帯損傷:関節を支える靭帯が伸びる・切れる
- 股関節唇損傷:関節の縁を覆う軟骨(関節唇)が損傷し、「カクッ」と引っかかる感覚を伴う
ランニング、サッカー、バスケットボールなど、繰り返し動作や衝突が多いスポーツで起こりやすいのが特徴です。
骨・軟骨の変性による股関節痛(変形性股関節症など)
関節を構成する軟骨や骨が変化することで起こる股関節痛もあります。
代表的なのが「変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)」です。
股関節のクッションである軟骨がすり減り、骨同士がこすれ合うことで炎症が起こります。初期には「立ち上がるときに違和感」「長く歩くと痛い」程度ですが、進行すると安静時や夜間にも痛みが続くようになります。
特に中高年女性に多く、先天的に股関節の形が浅い「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」を持っている場合、若い頃から症状が出ることもあります。
💬放置すると関節が変形し、歩行困難や手術が必要になるケースもあるため、早期発見が大切です。
血流・免疫の異常による股関節痛(大腿骨頭壊死・関節リウマチなど)
股関節の痛みの中には、体の内部の異常が関係するタイプもあります。
大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)
太ももの骨の先端(大腿骨頭)に血液が届かなくなり、骨の組織が壊死してしまう病気です。
初期は違和感程度でも、進行すると歩くのが難しいほどの痛みを伴います。
ステロイド薬の長期使用や過度の飲酒、糖尿病、外傷などがリスク要因ですが、原因不明の場合も多くあります。
関節リウマチ
免疫の異常により、自分の関節を攻撃してしまう病気です。
股関節に炎症が起こると、腫れや熱感、朝のこわばりが見られ、安静にしていても痛みが続きます。
関節破壊が進行すると変形や可動域の制限が起こるため、早めの治療が重要です。
右股関節だけ痛い/左股関節だけ痛い場合
片側だけの痛みには、体の使い方のクセや内臓疾患が関係していることがあります。
- 右股関節が痛い:肝臓・胆嚢のトラブルによる関連痛の可能性
- 左股関節が痛い:腎臓や婦人科系(卵巣・子宮など)の疾患が関係することも
- 利き足の使いすぎ:片足重心や立ち仕事、スポーツによる偏り
股関節以外の症状(発熱・腹痛・倦怠感など)を伴う場合は、整形外科だけでなく内科的検査も必要です。
症状でわかる股関節痛のサイン
股関節の痛みは、ある日突然ではなく、少しずつ始まることが多いです。ここでは、ご自宅でできる簡単なチェックと、医療機関を受診したほうがいいサインを紹介します。特別な器具はいりません。日常動作の中で「いつもと違う」と感じるポイントを観察してみましょう。
立った姿勢で足の付け根を軽く押す
鏡の前に立ち、腰骨の下あたりを指で押してみましょう。
- 片側だけ違和感がある
- 押すとズーンと響く
→筋肉のこわばりや滑液包(かつえきほう)の炎症が関係している可能性があります。
あぐらや正座をしてみる
床に座って、あぐらや正座の姿勢を取ってみましょう。
- 股関節の奥がつっぱる
- 片方だけ深く曲がらない
→ 関節周囲が硬くなっていたり、軟骨が摩耗しているサインかもしれません。
靴下を履くときに足が上がるか
椅子に座り、片足を反対側の膝の上に乗せる動作をしてみましょう。
- 足を持ち上げづらい
- 鼠径部(太ももの付け根)が痛む
→ 初期の変形性股関節症でよくみられる症状です。
片足でバランスを取る
壁に軽く手を添え、片足で3秒ほど立ってみてください。
- 支える側の股関節が痛い
- 体が横に傾く
→ 中臀筋など、股関節を支える筋肉が弱っているかもしれません。
歩いたときのリズムを意識する
数メートル歩いてみて、「左右で足の長さが違う感じ」「体が揺れる」などの感覚がある場合、関節の可動域が狭まっている可能性があります。
受診を考えるべき“赤信号”サイン
これらの動作で痛みが強く出る、もしくは次のような症状がある場合は、自己判断せず整形外科の受診をおすすめします。
⚠️夜や安静時にもズキズキ痛む
動かしていなくても痛みが続くのは、炎症や関節内部の異常が進んでいるサイン。特に「寝返りで痛む」「夜眠れない」場合は、早めの診断が必要です。
⚠️歩くのがつらい・階段が怖い
体重をかけると痛む、歩くと股関節が引っかかるような感覚がある場合、変形や滑膜炎が起きている可能性があります。
⚠️股関節が腫れて熱をもつ
触ると熱っぽい・赤みがある場合は、炎症や感染性の関節炎の恐れがあります。この段階ではストレッチやマッサージは禁物です。
⚠️足のしびれや脱力感がある
股関節痛に加えて「足に力が入らない」「しびれる」などの症状がある場合、腰椎椎間板ヘルニアなどの神経が圧迫されている可能性があります。
放置すると歩行障害や排尿異常に進行することもあるため要注意です。
股関節痛の原因となる代表的な病気5つ
股関節の痛みの背景には、いくつかの疾患が関係している場合があります。ここでは代表的な5つの病気を、発症の傾向や特徴とともに紹介します。
(※ここでは一般的な医学情報をもとに説明しています。実際の診断は医師による判断が必要です。)
変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)
股関節の軟骨がすり減り、骨が変形して痛みを生じる疾患です。
日本では特に女性に多く、有病率は男性1.0〜4.3%、女性2.0〜7.5%と報告されています。
40〜50歳以降で増加し、発育性股関節形成不全や臼蓋形成不全などの先天的要因を背景に起こることが多いです。
レントゲン検査で変形の進行を確認できるため、「立ち上がる時の違和感」「歩きはじめの痛み」を感じたら整形外科受診をおすすめします。
関節リウマチ
免疫の異常によって関節に炎症が起こり、腫れやこわばりを生じます。
日本での有病率は0.2〜1.0%、女性に多く(男女比1:3)、40〜50代で発症が増えます。
手足の小さな関節だけでなく、股関節などの大関節にも波及し、進行すると関節破壊を引き起こすことがあります。
診断には血液検査や画像検査が用いられます。
「朝、関節がこわばる」「複数の関節が痛む」と感じたら早期受診が重要です。
大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)
股関節の骨の先端(大腿骨頭)に血流が届かなくなり、骨組織が壊死する病気です。
日本での有病率は約0.02%、30〜59歳の男性に多くみられます。
初期は無症状なこともありますが、進行すると「歩くと股関節がズキッと痛む」「安静時も痛む」などの症状が現れます。
ステロイド長期使用や過度な飲酒、糖尿病、膠原病がリスク因子です。
MRIで早期発見が可能なため、「原因不明の股関節痛」を感じたら検査を受けましょう。
先天性股関節脱臼・臼蓋形成不全の後遺症
出生時や乳児期に股関節が脱臼していた状態を指します。
女児に多く(男女比1:5〜9)、骨盤位分娩が関係するといわれています。
幼少期に装具治療や手術で整復していても、加齢とともに股関節の形が浅くなり、変形性股関節症の原因になることがあります。
「昔脱臼したことがある」「若いころから片側だけ痛い」という場合は、このタイプが多いです。
大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)・大腿骨転子部骨折(だいたいこつてんしぶこっせつ)
転倒などで太ももの付け根(大腿骨の根元)が折れる骨折です。
70歳以上で急増し、年間発生件数は約17万例(2021年)と報告されています。
男性よりも女性に多く、骨粗鬆症による骨の脆弱化が大きな原因です。
骨密度の維持と転倒予防が最大の予防策です。
「最近ふらつく」「小さな段差でつまずく」場合は注意が必要です。
※骨粗しょう症の治療で同じ薬を5年以上続けている場合、くすりに種類によっては、レントゲンでもわかりづらい骨折を起こすこともあるため、注意が必要です。
股関節痛の治し方・セルフケアと注意点
股関節の痛みは、時間が経つほど悪化していくケースが多く、早めの対処と自分に合ったケ”の積み重ねが、回復への近道になります。ここでは、臨床現場でもよく行われているセルフケアの考え方と、注意すべきポイントをまとめました。
まずは「冷やす?温める?」の判断から
股関節の痛みには、「炎症による痛み」と「血行不良によるこわばり」があります。
原因によって、温めるか冷やすかの対処が変わります。
- 動かさなくてもズキズキ痛む/熱っぽい→ 炎症の可能性あり。冷やすのが基本。
- こりや重だるさ・朝動きづらい→ 筋肉の緊張によるもの。温めて血流改善が有効です。
冷やすのは「急な痛みの初期」、温めるのは「慢性的な痛みの改善」に使い分けるのがコツです。
自宅でできる股関節のセルフケア
温熱療法(お風呂・ホットタオル)
体を温めると、股関節周囲の筋肉や腱の血流が良くなります。入浴時は湯船に10〜15分つかり、筋肉をじんわりとほぐしましょう。冷え性の方は、寝る前にホットタオルを股関節の前側に当てるのもおすすめです。
- 注意:赤く腫れている・熱感があるときは温めないでください。炎症が悪化するおそれがあります。
軽いストレッチと股関節の可動域維持
痛みが落ち着いているときに、軽い動きで関節の動きを保ちます。
おすすめストレッチ
- 椅子に座って、足首をゆっくり回す
- 仰向けで両膝を抱えて胸に引き寄せる(お尻〜太ももが伸びる)
- 片膝立ちで、前脚の股関節の前側を伸ばす(腸腰筋ストレッチ)
無理は禁物です。「気持ちいい範囲」で止めてOK。痛みが出る手前でやめるのが安全です。
姿勢と生活習慣の見直し
股関節への負担は、“立ち方・座り方・歩き方”に大きく関係します。
たとえば、片足重心・猫背・脚組みなどのクセは、痛みを長引かせる原因に。
意識したい3つのこと
- 座るときは背筋を伸ばして深く腰をかける
- 立つときは両足に均等に体重をかける
- 長時間同じ姿勢をとらない(30分に一度は立って体を動かす)
また、体重の増加も股関節への負担を増やします。無理なダイエットではなく、“股関節を守るための体重コントロール”を意識すると良いでしょう。
治療とセルフケアを組み合わせる
痛みが続く・強くなる場合は、自己判断せず整形外科を受診してください。
画像検査で原因を特定できれば、最適な治療とセルフケアを並行できます。
医療機関での主な治療法
- 薬物療法: 炎症を抑える鎮痛剤・湿布など
- 理学療法: リハビリで股関節の動きを改善
- 注射療法:炎症を和らげる注射など
- 装具療法: 負担を減らすための杖・サポーターの利用
- 手術療法: 進行した変形性股関節症では人工関節置換術が有効
実際に診察してみると、「もう少し早く来ていればリハビリで良くなったのに」というケースも少なくありません。痛みを“我慢する期間”を短くすることが、回復を早める最大のポイントです。
自己流で悪化させないために
「ストレッチしたら良くなる」「温めれば大丈夫」と思っていても、症状によっては逆効果になることもあります。
やってはいけないこと
- 強い痛みを我慢して運動を続ける
- 炎症があるのに温湿布を貼る
- ネット情報だけを信じて、独自のマッサージを行う
- 痛み止めを飲み続けて、原因を放置する
股関節は、体の中でもっとも繊細で負担がかかりやすい関節です。
“痛みのサイン”を押し殺すより、「なぜ痛いのか」を確かめる姿勢が大切です。
まとめ
股関節痛は、年齢のせいだけではありません。姿勢・筋力・関節構造、そして生活習慣が少しずつ積み重なって生じます。けれども、早い段階で適切なケアを始めれば、「もう歩けないかも」と感じていた痛みも、しっかり改善するケースがたくさんあります。痛みを我慢せずに、体の声を聞くこと。そして、専門家と一緒に「治していく道」を選ぶこと。
それが、股関節を守るいちばん確実な治し方です。

